『昔話』 みそ買い橋

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昔むかし、飛騨国の乗鞍山の麓、沢上というところに、長吉という真面目な炭焼きがおりました。

ある夜のことです。この長吉の夢に白髭のおじいさんが現れて言いました。

「長吉よ、高山の町へ行って、みそ買い橋の上に立っていてみろ。良いことがあるぞ」

はて、良いこととは何のことだろうか。夢の中の出来事とはいえ、長吉は忘れられません。気になって仕方がないので、高山まで行ってみることにしました。

朝早くに背中に炭を背負い、野を越え山を越え、炭を売り歩きながら、ずんずん行くと、やがて高山にたどり着きました。

そして、目的のみそ買い橋を見つけるのですが、その橋はいかだを繋いで拵えたものだったそうです。

年寄りに話を聞くと、川向うの味噌屋に味噌を買いに行くのに架けた橋だったため、その名がついた、ということでした。

「よし、とりあえず、この橋で待ってみるか」

長吉は橋の真ん中に立っていましたが、何時間経っても何も起こりません。ついには一日が過ぎ、二日、三日と、橋の上で待っていましたが、一向に良いことはありません。

しかし、長吉はそれでもめげずに橋の上で立ち続けました。

そうすると、その長吉の姿を不審に思ったのか、橋のたもとの豆腐屋の主人が出てきて、彼にこう問いました。

「お前さんお前さん。あんたがどこのどいつかは知らんが、どうしてまたこんな場所で何日も突っ立ってるんじゃ?」

長吉は自分が見た夢のことをカクカクシカジカと語ると、豆腐屋は吹き出して笑いました。

「物好きな奴もおったもんじゃ、そんな夢を本気にしおって。しかし、夢と言えば、わしもつい数日前、同じように不思議な老人の夢を見たのう」

「ほう、どんな夢じゃ?」

「それがの、なんでも乗鞍山の沢上というところに長吉というものがおるらしい……」

これを聞いた長吉は「それはおいらのことじゃ」と喉元まで出かかったが、すんでの所で堪えて、静かにふんふん、とだけ相槌を打ちました。

「そいでな、その男の家の庭に松の木があるんじゃが、その根本を掘ったら、宝物が出て来るというんじゃ。おかしな話じゃろう? 第一、わしは乗鞍山の沢上なんてところは知らんし、よしんば知っていても、そんな馬鹿げた夢を本気にすることなどせん。お前さんもいい加減、目を覚まして帰ったらどうかのう」

そう言うので、長吉は、まさに夢の老人はこのことを言っていたのだと確信し、家まで飛んで帰りました。そして、言われたように松の木の根本を掘り起こしてみると、そこから目もくらむほどの金銀財宝が出て来るではありませんか。

長吉はそのおかげで大金持ちになり、村人から福徳長者と呼ばれ、いい人生を送ったそうな。




不思議な夢を見た男の話です。

以前記事にした、『山を呑んだ男』では、自らの不幸な結末を暗示するものとして、夢が登場しますが、今回は反対に、幸福を呼び込むものとして夢が出てきます。

夢に登場する白髭の老人が何者かは分かりませんが、幸福を象徴する仙人のような存在なのでしょうか。

自分もこんな夢を見てみたいものですね。苦せずして、裕福な生活を手に入れることは、誰もが一度は考えたことがある理想だと思います。

しかし、それにしても、この話、だと思いませんか?

だって、金銀財宝が長吉の家の庭に埋まっているなら、最初からそうだと老人が長吉に直接話せばいいではありませんか。わざわざ、遠くの町まで行かせて、何日も待たせる意味が分かりません。

もし僕が長吉だったら、あの爺さんめ、まどろこっしいことをさせやがって、と毒づくに違いありません。

いや、これはもしかすると、あれでしょうか。

老人から財宝を手にするのに値する人間かどうか試された、ということです。

なるほど、そうだとすれば納得です。

豆腐屋の主人のように、たかが夢だと一蹴するような人間ではなく、不思議なことでも素直に信じる事のできる、純粋な心根を持った長吉だからこそ、富が与えられたのでしょう。

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コメント

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No title

>二日、三日と、橋の上で待っていましたが

待ちませんよ!普通(・o・)

途中まで読んでて
てっきり、足止めされてるうちに
誰かが松の木の下の宝物を掘り出してるのかと…





この話し、実は深いのかも?
最近読んだマンガ
『インベスターZ』
http://www.moae.jp/comic/investorz
の185話の中で



 100人の人間が思いついても行動するのは一人
 そして行動した100人のうち、行動し続けられるのは
 そのうちの、たった一人
 
 つまり10000人のうち、一人しか
 「やり続ける」人間はいない
 
 天才とは
 じつはそういうカラクリなのだそうです


夢のお告げを信じ、待ち続けた。
この人、天才だったのかも(゜_゜)



そして、
>これを聞いた長吉は「それはおいらのことじゃ」と喉元まで出かかったが

情報を秘匿し、チャンスをものにしたんですな
ビジネスの社会にも通じるような教訓ですが

しかし、親切な豆腐屋さんの事を思うと(-。-)y-゜゜゜







などと、楽しませてもらってます(●^o^●)


Re: No title

楽しんでもらえてなによりです。

昔話って、現代においても、いろんな情報を元に分析出来るから奥が深くて面白いですよね。(*´∀`*)