『怪異譚』 迎えに来た怪異

とある山奥であったことです。ある男が夜中、鹿を狩るために、庵の中で待ち伏せていたことがありました。すると、この男の女房が片手に行灯(あんどん)を持ち、杖を突きながら山道をやってきて、こう言うのです。「今宵は、特に寒くて、嵐がやってくるようです。早く帰りましょう」これに対し、男は首を傾げました。どうしてこんな場所まで女房がやってくることがあるのか。きっと妖怪変化の類に違いない。そう考えた男は、女房に...

『妖怪』 隅の婆様(すみのばさま)

山形県米沢で行われる一種の肝試しで、そこに現れる妖怪。夜中の座敷で、四隅に一人一人が座って灯りを消す。その後、四隅から真ん中に這い出して、真っ暗闇の中でお互いの頭を探りながら、「一隅の婆さま、二隅の婆さま…」と数えてゆくと必ず1人多く5つめの頭があるという。           ―『日本妖怪大事典』より抜粋―今回ご紹介するのは、そこにあるはずのないものが出現する不気味な怪談です。想像してみてください...

『伝説』 鬼無里の村

昔、天武天皇の時代のこと。天皇が信濃国に都を移そうとお考えになったことがありました。信濃国、水内の水無瀬(みなせ)と呼ばれる場所が都に適していることがわかったのです。しかし、これに困惑したのは、その場所に住んでいた鬼たちでした。彼らは、ここに都を移されては、自分たちの居場所がなくなることを恐れ、天皇の計画を邪魔しようと企てたのです。何をしたかと言うと、なんと一晩のうちに、平野の中央に山を一つ築き上...

『奇談』 能筆を借りる?

江戸時代、文政の頃にあったことです。相州小田原に能筆家(文字を書くことが上手な人こと)として有名な人がいました。この人は築山が趣味で、自宅の庭に泉水などを作って楽しんでいたようです。ある時、この主人の元に見慣れない格好の異人が訪れました。「私は小田原最上寺の山奥に住んでいる天狗だ。貴殿の書く字が上手だと噂を聞いてやってきた。どうか某日まで、その能筆の手を貸してくれ」と、こう言うのです。能筆の手を貸...

『怪異譚』 来つ寝(きつね)の女

昔、欽明天皇の御代のことでございます。美濃の国のとある男が、美しい女性を妻に娶ろうと馬に乗って旅に出たことがありました。その折、広い野原を行く途中で一人の見目麗しい女性に出会いました。この女は男に対してとても親しげに、魅力的な素振りを見せるので、男は彼女に、「あなたは、どこに行かれるのですか?」と訊ねました。すると、その女は答えて、「実は、良いお婿さんがどこかにいないものかと探しているのです」と言...

『奇談』 不思議のタイマグラ

土淵村の鉄蔵という男から聞いた話であります。早池峰山の小国村方面にある、タイマグラ、と呼ばれる沢では不思議なことが多いのだそうです。下村の某とかいう男がいわな釣りに出かけたのだそうですが、山奥の洞窟の影に赤い顔の老人と若い娘を見たということで、いずれも見慣れない衣服であったとのことです。さらに、このタイマグラという土地には、谷川を挟んで石垣の畳で作られた人の住居のようなものがいくつも見受けられます...

『奇談』 盲人の書状

安永9年のことであります。浅草の辺りで、年の若い武家の主人が従僕を連れて歩いていると、一人の盲人が向こうからやってきました。その盲人は何やら懐から一通の書状を取り出すと、丁寧な所作で年の若い武家に近寄り、こう言いました。「国元から書状が届いたのですが、私は見ての通り盲人でごさいまして読むことが出来ません。少々気がかりなこともあるので、誠に恐れ入りますが、お読み聞かせ願えませんでしょうか?」従僕たち...

『奇談』 盗人の人を助くる事

昔、江戸で起こったことです。とある盗人がいました。この盗人、金目のものを盗み出そうと民家に忍びこんだことがありました。首尾よく縁の下に潜り込み、そっと家の中の様子を窺っていると、奥の方から家の主人らしき人物が歩いてきました。身をかがめて、なるべくじっとしている盗人でしたが、どうやら、この家の主人、縄を持っているようです。『もしや、居場所がバレて今から自分を縛り上げようとしているのではないか』そう思...