『妖怪』 恙虫(ツツガムシ)

昔つゝが虫といふむし出て人をさし殺しけるとぞ。                 ― 絵本百物語桃山人夜話より ―斉明天皇が在位なされていた頃でございます。石見国(島根県)八上という場所の山奥に「つつが」と呼ばれる虫がおりました。夜な夜な人家に入り込んで人が眠っているのを見つけると、その生き血を啜ったのです。このため、この虫に殺される者が多くいました。天皇が某とかいう博士に仰せ付けてこの虫を封じさせて...

『奇談』 老婆の奇食

昔橋野の太田林に、母と子と二人暮らしの一家があった。母は六十を過ぎてもう働くことができず、息子一人の手で親を養っていたが、その子は大阪の戦に駆り出されて出て往った。村の人たちは婆様が一人になって、さだめて困ることだと思って時折行ってみるが、いつまで経っても食物が無くなった様子が見えぬ。不思議に思ってある者がそっと覗いて見ると、その婆様は土を喰っていたという。それゆえに今でもその土地を婆喰地と書いて...

『怪異譚』 狸の妙薬

打ち身によく効くと言われる狸薬と言うものがあります。材料に狸を使っているのではなく、狸に作り方を教わったという理由でこう呼ばれています。そのお話というのが――。とある侍の奥方が、真夜中に雪隠(トイレ)に行った時のことです。用を足していると、なにやらお尻の方を毛の生えた手が触ってきました。不審に思った奥方は夫の所に戻り、このようなことがあったと伝えます。それを聞いて、夫である侍は、「おそらく狐か何かの...

『怪異譚』 怪火の寺

(群馬県吾妻郡東吾妻町 岩櫃山)現在の群馬県吾妻郡原町、岩櫃山と呼ばれる櫃の形をした山の麓に、善導寺というお寺があります。実はこの寺は以前、何度も火事によって焼け落ちた過去があるのですが、それには特別な理由があるというのです。昔の話になりますが、この岩櫃山には岩櫃城というお城が建造されていました。永禄6年(1563年)のことです。当時、お城は斎藤憲広という人によって治められていました。甲斐の武田信玄は...

『妖怪』 小玉鼠

秋田県北秋田郡でマタギに伝わる怪異。山の神の機嫌が悪いときに二十日鼠を丸くしたようなものが現れ、背中から裂けて破裂するという。その際に「ポンッ」という破裂音(飛び跳ねる音とも)を聞くと、その日は獲物がとれなくなるとか、雪崩などの災厄に見舞われるとかいう。マタギにはいくつかの流派があり、そのうち小玉流の猟師たちが、山の神の罰を受けて鼠になったという昔話がある。                ―『日本...

『怪異譚』 酒の虫

昔、とても酒好きな男がおりました。あまりにも酒が好きで好きで、ただ酒屋の前を通ることすら難しい様子でした。両親はそのことをとても心配して、とある医者にこの男の治療を頼みます。その医者はやってくると、まずは上等な酒と肴をたくさん用意させ、この酒好きな男を家の柱に縛りつけました。そして、どうするのかというと、今度は人々を集めてきて、用意した酒や肴をその人たちに振る舞い、宴会を始めたのです。人々は大いに...

『奇談』 湖底の大蛇

ある時、江州のとある里に住む一人の侍がおりました。この侍は以前、長さ二間(約3メートル60センチ)ほどの大蛇を斬り殺したことがあるとかで、人々は「蛇切り」と呼んでいたそうです。さて、この人の住まいは琵琶湖の東の辺りにあったそうなのですが、その付近の浦(入り江)に大蛇がいて湖の底に住んでいるという言い伝えがありました。このせいでしょうか、何者の仕業なのか分かりませんが、この侍の家の門前に「この浦にい...

『怪異譚』 東だか西だか

昔、小槌の釜渡りの勘蔵という人がいました。この人がカゲロウの山に小屋掛けをして生活をしていたときのことです。ある日、突風が吹き荒れる大嵐となりました。勘蔵は小屋の中にいたのですが、その大風に乗って、ふいに何かが小屋の屋根に飛んできて止まりました。その何者かは、勘蔵に向かって、「あいあい」と声をかけました。勘蔵が思わず返事をすると、その何かは、「あい東だか、西だか?」と問いかけてきました。東か西か、...