『奇談』 天女の接吻

松平陸奥守忠宗の家来に番味孫右衛門という人がおりました。ある時、この人が自宅の座敷で昼寝をしていたところ、夢の中で空から天女が自分の傍に下りてきました。そして、自身に口づけをしたかと思うと、その瞬間に目が覚めました。思わず辺りを見回した孫右衛門でしたが、もちろん、周りに人などいません。『全く、思いもよらぬ夢を見たものだ』と、とても奇妙な心地でしたが、人に話すのもなんだか恥ずかしく思えて、口外しませ...

『怪異譚』 お金に嫌われし男の奇妙な運命

相州大住郡の某村に、とても貧しい男がいました。この男は生まれてきてから、小判というものを持ったことがなく、一度でいいから自分の懐に小判一両を入れてみたいと常々思っていました。男には妻がいましたが、そんな男の夢を叶えるため、二人で力を合わせ、夜も昼も働き、ようやく小判一両を手に入れることが出来ました。昔からの念願が叶ったのです。男はその小判を大事に持って帰ると、それに自分の名前を記して、神棚に供え、...

『奇談』 牛の玉なるもの

牛の玉というものを寺社の開帳などの折に、霊宝として見せることがありますが、それは決して綺麗なものではなく、毛などが生えていて、よくわからない物であることが多いようです。自分で勝手に動き回るように見えるために、人々は不思議な物として珍しがりますが、これといって意味があるものではありません。隠岐国は、放し飼いをしている牛が特に多いところでありまして、ある時、佐久間某とかいう人が、職務でこの国を訪れた時...

『奇談』 死と分裂

小田原城下の浦に百姓の住んでいる村がありました。この村に西岡又三郎と言う中間がいたのですが、ある時、病気になって死んでしまいました。夜更けに遺体を野原に埋めてやろうと、その者の住まいに人々が集まり、日が暮れるのを待っていたのですが、ここで奇妙なことが起こりました。人々の集まりに見慣れない男が入り込んできて、誰に挨拶するでもなく、遺体の前に座り込んで大声で泣き始めたのです。人々は少々面くらい、変に思...

『妖怪』 周防大蟆

岩国山の奥に八尺(約二メートル四十センチ)ほどの大蝦蟇がいたと言います。昼間は空を向いて口を開け、虹のような気を吐きます。この気に触れた鳥や虫などの類は皆、この蝦蟇の口に入ってしまうのです。夏は蛇を食べるのだそう。本来、蛙にとって蛇は天敵ですが、窮鼠猫を噛むということわざのように、この蝦蟇は蛇を食い殺してしまうのです。唐土の燕然山の苔渓に棲んでいる蝦蟇は一丈(約三メートル)以上もあり、人をも飲み込...

『奇談』 毛雨

寛政丑年七月十五日のこと、江戸で小雨が降ったのですが、その中に生き物の毛が混じっていることがありました。丸の内周辺では特に大量の毛が降ってきたとのことです。長さは五、六寸(約十五センチほど)で、特に長いものには一尺二、三寸(約三十センチ)のものもあったそうです。中には赤い毛もあったと言います。親しい人がその毛を京都まで送ってきてくれたのですが、馬の尻尾の太さほどの毛なのでした。江戸の広範囲に降った...

『奇談』 物干しの沢

明治も末頃のある年、土淵村栃内大楢の大楢幸助という兵隊上りの男が、六角牛山に草刈りに行って、かつて見知らぬ沢に出た。そこの木の枝にはおびただしい衣類が洗濯して干してあった。驚いて見ているところへ、一人の大男が出て来て、その洗濯物を取り集め、たちまち谷の方へ見えなくなってしまったという。これは本人の直話である。               ― 『遠野物語拾遺』より ―不思議なお話ですね。山の中でふいに...

『妖怪』 辻神

兵庫県淡路島、鹿児島県屋久島宮ノ浦でいう妖怪。屋久島の宮ノ浦では、丁字路の突き当たりに家を建てると辻神が入り込むという。そうした家には病人が絶えず、不幸が続くと信じられたので、突き当たりに石敢当という長方形の石を配置して魔除けしたという。兵庫県淡路島の三原郡沼島村(南淡町)では、四ツ辻に現れる妖怪を辻の神というらしい。もちろん神とはいっても、民間神のように祭祀されているわけではなく、むしろ「魔」と...

『妖怪』 白い蝶

高知県吾川郡伊野町や香美郡野市町でいう妖怪。夜更けの道を歩いていると、白い蝶が雪のようにひらひらと飛んできて、顔や身体にまとわりつく。いくら払ってもきりがなく、息が詰まるほどだという。これに出会うと、死んでしまうといわれている。昔、何かの事件で横死した者の亡霊のしわざともいう。            ― 『日本妖怪大事典』より抜粋 ―今回は、蝶の妖怪のお話です。野原を自由に舞い飛ぶ蝶々は皆さんご存知...