『珍談』 泥棒の法

附馬牛村の阿部某という家の祖父は、旅人から泥棒の法をならって腕利きの盗人となった。しかしけっして近所では悪事を行わず、遠国へ出て働きをしたという。年をとってからは家に帰っていたが、する事がなく退屈でしかたがないので、近所の若者たちが藁仕事をしている傍などへ行っては、自分の昔話を面白おかしく物語って聞かせて楽しんでいた。ある晩のこと、この爺が引き上げた後で、厩の方がたいへんに騒がしい。一人の若者が立...

『奇談』 嵐の中の小舟

安政三年(1856年)の八月のことでございます。下総国(現在の千葉県)銚子のとある浜にて、とても不思議なことが起こりました。その浜には商売のための漁船を持った、松下五兵衛という金持ちがいたそうなのですが、その日、大嵐で海が荒れていたので、使用人を二人、岸にくくりつけていた小舟の見張りにつけていました。小舟ではあるものの、大事な商売道具でありますので、心配だったのでしょう。しかし、二人の見張りのうち...

『奇談』 神隠しにあった少年

 寛政八年(1796年)の盆の十四日、この日、江戸で神隠しと思しき怪事が発生しました。 下谷の広徳寺前(現在の東京、上野駅付近)にとある大工がおりまして、この男に十八、十九ほどの倅(せがれ)がいたのですが、この倅、葛西辺り(現在の東京葛飾区)に腕の立つ大工が拵えたという寺の門を見に行くと家を出たきり、消息をたってしまったのです。 両親の動揺、うろたえぶりは尋常ではありませんでした。近所の知り合いに...

『奇談』 恵みの白石

昔、加州(現在の石川県)に鶴来というところがありました。この土地の氏神を金歛宮と言いまして、人々は洞窟に祠を作り、その神を信仰していました。ある時のこと、その土地が飢饉に見舞われました。飢えた人々は神の祠の前に集い、どうにか生き延びさせてほしいと、毎日、祈りを捧げました。すると、その思いが天に通じたのでしょうか、ある日のこと、空が俄にかき曇り、見たこともない真っ白い石のようなものが落ちてきたではあ...

『奇談』 磁石と鷲

昔、栄井武兵衛という磁石屋がおりまして、この者から中村常行という男が聞いた話であります。この磁石商が言うには、一級品の磁石というのは、北国から持ち込まれてくるのだそうです。しかし、そうは言っても、北国に磁石があるのではなく、北国よりさらに向こう、異国の地にあるのだというのです。ならば、そこまで誰かが取りに行くのか、というと、これがまたそうではない。では、如何にして採取するか。この方法が今まで聞いた...