『怪異譚』 御香宮の女房

 伏見の里の御香宮(ごこうのみや)は神功皇后の御廟であり、立派な大社で、多くの人々が崇め奉っている場所でございます。宿願を持つ者たちは絵馬を奉納して祈りを捧げるのですが、その願いが叶えられないということはございません。 そのため、多くの絵馬が神前に捧げられ、繋馬(つなぎうま)、挽馬(ひきうま)、帆掛舟、花鳥草木などや、中には美女の遊ぶ姿を描いたものなどもあります。 さて、文亀年間(1501~150...

『珍談』 泥棒の法

附馬牛村の阿部某という家の祖父は、旅人から泥棒の法をならって腕利きの盗人となった。しかしけっして近所では悪事を行わず、遠国へ出て働きをしたという。年をとってからは家に帰っていたが、する事がなく退屈でしかたがないので、近所の若者たちが藁仕事をしている傍などへ行っては、自分の昔話を面白おかしく物語って聞かせて楽しんでいた。ある晩のこと、この爺が引き上げた後で、厩の方がたいへんに騒がしい。一人の若者が立...

『怪異譚』 火の玉に焼かれた男

昔、下総の国(現在の千葉県)銚子の浜に、小舟に乗って漁業を営んでいる喜助という盲人がおりました。この男、元々は両目とも見えていたのですが、生まれつき、歪んだ心の持ち主であった彼は、文政(1818~1830)の頃に常陸国(現在の茨城県)大宝の八幡宮に奉納されていた刀を盗み出したことで、天罰が下り、両目が潰れて盲人となっていました。しかし、それでも彼の曲がった性根は治らなかったようで、今度は、銚子の飯...

『伝説』 百椀とどろ

昔、日向国(現在の宮崎県)北方村字荒谷というところに『百椀とどろ』という場所がありました。そこは谷に沿って流れる川が滝となっている所でして、周囲を林に囲まれた昼さえ薄暗い淵でした。そんな少々不気味な場所ですが、荒谷に住んでいる人々は来客があった際など、必要な食器が足りない場合、そこへ、お椀を借りに行くことがあったのだそうです。淵でお椀を借りるとは、どういうことか。とても不思議な話ですが、人々がその...

『妖怪』 おとろし

全身毛むくじゃらの妖怪おとろしです。以前、資料や解説文などが存在しない正体不明の妖怪わいらを紹介したことがありますね。こちらのおとろしは、そのわいら同様、どのような妖怪なのか、伝えられている話はほとんど皆無です。おとろし、という名前から「おどろおどろしい」や「おどろ髪」といった言葉と関連しているらしいのですが、それ以外、これといった説明はありません。というと、話がここで終わってしまうので、今回はこ...